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生産技術

新型液ガス式熱量調整装置「AtoMS」

<受賞履歴>

2018年度(平成30年度)日本機械学会賞(技術)

1. はじめに

天然ガス(NG)に液体の液化石油ガス(LPG)を直接注入する液ガス式熱量調整装置において、LPGを微粒化するノズル機構および制御技術をJFEエンジニアリングと共同開発しました。これを適用した「AtoMS(Atomization Mixing System)」は、従来の液ガス熱量調整装置であるベンチュリ方式(以下、「従来方式」)と比較して、ユニット単機あたり約4倍の流量範囲で熱量調整が可能となりました。
実用初号機を東邦ガス四日市工場に建設し、従来方式と比較して低コスト/省スペースを図った上で優れた運用性を実現しています。
また、多様なニーズに対応するため、省スペース化を図った「縦置きAtoMS」および圧力損失の低減を図った「差圧抑制型AtoMS」の開発・実用化も行っています。

AtoMS全景
写真1.AtoMS全景

2. 開発の概要

高圧で大容量の液ガス式熱量調整装置で多く採用されている従来方式は、最大設計流量の1/ 5(NGターンダウン比、以降同じ)を下回ると、LPGが液の状態で流出する「液だれ」現象が発生する弱点を持っていました。したがって、低流量域の運転を必要とする場合は、大小2系列のユニットを組み合わせる必要があり、切り替え時の制御が難しいことや設置スペースの増大、コストアップとなる課題がありました。
このため、熱量制御性に優れるという従来方式の利点を活かしつつ、1系列のユニットで低流量域でも「液だれ」せずに熱量調整可能な新型の熱調装置の開発を行いました。

液ガス熱量調整装置の運転流量域
図1.液ガス熱量調整装置の運転流量域

「AtoMS」には、本管から分岐したNGをLPG混合部に導入し、LPG液を微粒化するノズルを組み込んでいます。運転負荷に応じて適切に制御されたNGを混合しながらLPG液を噴霧し、低負荷運転時にも確実に微粒化させることで、1系列のユニットで最大運転流量の1/20の低流量域まで運転が可能となりました。

従来方式と「AtoMS」の構造
図2.従来方式と「AtoMS」の構造

3. 実用機の仕様

2010年度(平成22年度)より当社の都市ガス製造工場内に実証試験設備を建設し、複数の微粒化ノズル機構について性能比較試験を実施しました。ノズル形状やNG流量の分配・制御量など、その際に得られた知見をもとに、実用初号機の設計を進めてきました。
平成25年度の伊勢湾横断ガスパイプラインの運用開始に伴い、当社の四日市工場に新型液ガス式熱量調整装置「AtoMS」の実用初号機を設置しました。

表1.「AtoMS」初号機の仕様

項 目 仕 様
型式 液ガス式熱量調整装置
設計圧力 7.0 MPa
運転圧力 約2.5 MPa(当初)
運転流量 7,000~140,000 m3N/h(13A流量)
配管口径 NG/13A:14~16B /LPG:3B
「AtoMS」初号機の外観
写真2.「AtoMS」初号機の外観

4. 開発の効果

「AtoMS」の採用により、次のような効果が得られています。

(1)工場運用性および送ガス品質の向上

(2)建設コストの削減

(3)省スペース化

従来方式 AtoMS
図3.設備構成例(上:従来方式、下:AtoMS)
建設スペース比較
図4.建設スペース比較

5. ラインナップの拡大

通常AtoMSはベンチュリを水平配置としていました。2020年度にはさらなる省スペース化を目的に、ベンチュリを垂直配置とした「縦置きAtoMS」の開発を行いました。
「縦置きAtoMS」の実用化により、増熱器本体のユニット化が容易になるとともに、設置スペースに制限がある場合にも対応できるようになっています。

建設スペース比較
図5.「縦置きAtoMS」の構造

2021年度には、熱量調整装置の圧力損失の低減が必要なプラントにも適用することを目的として、新たな流量分配・調整機構で適切にNGを制御する「差圧抑制型AtoMS」の開発を行いました。これにより、NG本管から分岐したNG系統(図6. 破線部分)を不要としました。
「差圧抑制型AtoMS」の実用化により、プロセス要件の厳しいプラントにも対応できるようになっています。

建設スペース比較
図6.「差圧抑制型AtoMS」の構造

6. おわりに

AtoMSは、新技術の開発、優れた性能、他社への採用実績などが高く評価され、2014年度(平成26年度)の日本ガス協会/技術賞の受賞に続き、2016年(平成28年)には日本ガス協会/技術大賞を受賞しました。
今後、非在来型天然ガス(シェールガス)など低熱量LNGの導入が進むと考えられ、熱調装置の需要はますます高まると予想されます。
こうした中、時間帯によって需要の変化が大きい都市ガスの需要に広範囲の運転範囲で柔軟に対応可能な「AtoMS」は、都市ガスの安定供給に貢献できるものであると考えます。