PROJECT STORY 05

OUTLINE

脱炭素社会への第一歩。
「使われる」現場へ想いを馳せて。

日本でも、海外でも、各地で相次ぐ異常気象や自然災害。
歯止めのかからない地球温暖化に、地球が悲鳴をあげているようだ。
国際社会は今、温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を
「実質ゼロ」とする脱炭素社会を目指して走りはじめている。
その実現に向けて、東邦ガスが開発したのは
未来のものづくりに貢献する「工業炉バーナの水素燃焼技術」。
次世代エネルギーと期待のかかる水素をいかに安全に使うか、
開発の担い手となった2人の技術者にプロジェクトへの想いを聞く。

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PROFILE

野口 英成

R&D・デジタル部門

技術研究所 業務用技術グループ
※インタビュー内容、所属は取材当時のものです。

2015年入社

工学系研究科、応用化学専攻。入社以来、一貫して業務用技術グループに所属する。学生時代のゼミ仲間のなかで、インフラ企業へ入社したのは珍しいケースとのこと。専門分野は違っても、学問的センスや思考プロセスなど学んできたことが活かされていると笑う。

野口

成田 雅彦

R&D・デジタル部門

技術研究所 業務用技術グループ チーフ(取材当時)

2006年入社

工学研究科、機械理工学専攻。入社後は技術研究所に配属され、燃料電池や水素技術に関わった。その後、2度の商品開発部への異動をはさみ、家庭用から産業用まで幅広い開発を経験する。プライベートでは3人兄弟の父。休日は公園で子どもたちと遊んで過ごす。

成田

始動

  • JUDGMENT
  • INITIATIVE
  • MISSION
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現実味を帯びてきた
水素社会の到来。

「水素社会がやってくる!」。このプロジェクトが始動した2016年は、水素を日常生活や産業に活用する取り組みが注目されはじめた頃だった。水素は、燃焼させると「水」を発生する性質を持つ。地球温暖化の原因となる二酸化炭素が出ないことから、地球温暖化のストッパーになりうる次世代エネルギーとして期待が寄せられていた。
この水素燃焼に、いち早く取り組んだのが野口だ。当初は、水素燃焼に関する技術や知識を蓄積しておいて、いつか機会があったときに活用できればいいという思惑で、試験的に進めていたという。2017年頃までは、都市ガス燃焼との相違点を抽出し、安全性を担保する実験など、実用化を目指した新規開発とは異なるレベル感で取り組んでいた。
同じ頃、成田は技術企画部に所属。全社的な技術開発の方向性を定める企画業務に携わり、「水素に関する技術開発を推進していくべきじゃないか?」と議論した経緯もあった。成田はその視点を持ったまま、2018年、野口と同じ業務用技術グループに異動した。
やがて、ゆっくりと水素社会到来の足音が聞こえはじめる。低・脱炭素化の世界的な潮流により、水素に関する技術開発に取り組む企業が現れてきたのだ。「今、このタイミングでアクセルを踏まないと、いざ水素社会が到来したときに間に合わない!」、久しぶりに開発の現場に戻った成田は、技術者として血が騒ぐのを感じた。この先、東邦ガスが持続的に成長していくためには、水素導入による収益向上に取り組むべきだと確信した成田は、水素燃焼技術開発プロジェクトの旗振り役となって、積極的に推進していくことを決意する!

協議

  • JUDGMENT
  • INITIATIVE
  • MISSION
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自ら考え、ニーズを探り
開発の方向性を模索する。

成田の参画によって、プロジェクトは加速する。 それまで、「お客さま第一主義」を掲げる東邦ガスの新規開発は、営業部門と互いにサポートしあいながら進められてきた。営業がお客さまのニーズを汲み取り、欲しいもの、問題解決につながるものを技術研究所が開発するというスタンスだったのだ。ところが、水素に関しては、営業からもお客さまからも明確な開発ニーズがない。「水素は危ない気体」という認識が根強いなか、当初は営業からの積極的な賛同やサポートが得られなくて苦労したという。メンバーたちは中部圏の大手製造メーカーから情報を得たり、営業と粘り強く協議を重ねたり、開発方針を自分たちで探っていった。
水素燃焼技術そのものは、小規模なバーナ開発を通じて蓄積されつつあった。都市ガスと違って臭いがなく、非常に燃えやすいという性質を持つ水素の安全な取り扱いについても、知見を得ていた。いよいよ、新規開発について本格的な検討がはじまる。
開発コンセプトは、「都市ガスバーナを活かす」ことだった。都市ガスバーナは、東邦ガスの技術力を結集した製品だ。お客さまごとに、求める炎のスタイルも違う。一気に加熱したい、ゆっくり長く加熱したいなど、お客さまの求める炎の形やパワーを、自由自在にカスタマイズできることが東邦ガスの強みだった。そのなかで一番の主力商品であり、自動車部品業界で多く採用されている工業炉バーナ「SRTNバーナ(シングルエンドラジアントチューブバーナ)」を新規開発のベースに採択。知見を活かして開発期間を短縮できる点や、自動車関連メーカーが集まる中部エリアの特徴を踏まえた判断だった。

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開拓

  • JUDGMENT
  • INITIATIVE
  • MISSION
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現場はヒントの宝庫。
実社会の空気感を感じつつ開発。

都市ガスを燃料とする工業炉バーナを、水素を燃料として使えるように開発する。それは日本で初めての挑戦だった。成田と野口は、緩やかに燃えるタイプのSRTNバーナと一気に燃え上がる水素は、相性がいいだろうと予想していた。具体的には、燃焼後の排ガスを炉内に再循環し、燃焼性をあえて抑えることで、水素の急激な燃焼を穏やかにする仕組みだ。
この技術開発の陰には、あるベテラン技術者の一言があったと野口は語る。水素の安全性について不安を抱えながら検討していたところ、「水素は燃えすぎるところが最大の特徴。そこをスタート地点として考えろ」と言われ、野口はいかに先入観にとらわれていたか気づいたという。当たり前を疑い、何が大事なのか見極めることが重要なのだ、と。
その点でいえば、このプロジェクトの大事なポイントは、「どう使うか」「どう使われるか」を主軸に開発することだった。例えば、水素専用のバーナを開発するという選択肢もあったのだ。そうしなかったのは、世の中に水素が普及したときに、現状のバーナをすべて取り替えなければいけないから。小さな改造で新技術を開発し、ユニバーサルな製品を作れば、お客さまの負担も少なくなるはずだと考えた。
成田や野口は、製造現場によく足を運ぶ。かつての仲間が営業部門に異動したことで、お客さまとの橋渡し役となってくれているのだ。技術者と営業が同程度の知識や熱量を持ち、連携しながら推進できるのは東邦ガスの地力。どんな環境で使われているのか、営業と一緒に確認し、現場で見えてくる課題やお客さまの反応を開発に活かしているという。
2021年の6月には、お客さまであるアイシンが保有する工業炉バーナにおける実用化を目指して、共同実験が開始された。コラボレーションの期間は約5年間。技術開発の現場と、それらが使われるモノづくりの現場が、強くしっかりとつながっていくはずだ。

人のために人とともに未来に挑む
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EPILOGUE

東邦ガスは、ものづくりの集積地である中部エリアで
お客さまやパートナー企業とともに燃焼技術に取り組んできた。
その技術力を水素に応用し、脱炭素化に貢献するのは
この地域に育てられてきた東邦ガスの責務だろう。

100%できると予想することを手がけても意味がない。
できるかどうかわからないことに挑戦するのが技術開発だ。
思いもよらないところで、知識や経験が活かせると野口はいう。
成田は、「早く失敗したもん勝ち。早く改善できる」と笑う。
開発したものが使われる喜びを知る技術者たちは、常に前向きだ。