PROJECT 02「メタネーション」プロジェクト 「メタネーション」技術で カーボンニュートラルを実現する。

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、ガス業界でも脱炭素化の動きが加速している。中でも有望視されているのが、CO2と水素から「e-methane(合成メタンのこと。以下同じ。)」を製造する「メタネーション」技術だ。東邦ガスでは、業界に先駆けて、「e-methane」を実際のガス管から供給する実証実験をスタートさせようとしている。本プロジェクトが持つ意義や、目的をプロジェクト担当者に聞いた。

萩野 卓朗

技術研究所 環境・新エネルギー技術
1995年入社
理工学研究科 計測工学専攻
※インタビュー内容、所属は取材当時のものです。

STORY 01

CO2排出量実質ゼロ。
「メタネーション」は革新だ。

本プロジェクトの構想を作成したのは、技術研究所の萩野卓朗。1995年の入社以来、燃料電池の開発や、水素ステーションの実証などを担当してきた新しいエネルギーやシステムに関する研究の第一人者だ。萩野は「メタネーション」技術の概要を次のように話す。

「『メタネーション』は、CO2と水素から『e-methane』を製造する技術です。メタンは燃焼時にCO2を排出しますが、その原料として、発電所や事業所などから回収したCO2を利用することで、排出されたCO2は回収したCO2と相殺されます。CO2排出量は実質ゼロ。本プロジェクトは、この意義深い技術を社会に実装するための第一歩なのです」現在、大手ガス会社は、この意義深い技術の研究・開発を各々の考えに基づいて、推進している。その中で東邦ガスが打ち出した方向性は、より実践的なものだった。実際に都市ガスを供給しているガス管から、「e-methane」をお客さまに供給する。社会実装を念頭に置いた、重要なチャレンジだと言える。「本プロジェクトの特徴的な取り組みは大きく2つ。1つは、知多市の協力を得てバイオガス由来のCO2を隣接する下水処理場からパイプラインで輸送しメタネーションの原料として利用する点。そして、製造した『e-methane』を都市ガス原料として利用することです。このチャレンジは国内初となるもの。量はわずかですが、ガス道管を通じてお客さまにe-methaneが届けられることになります」

STORY 02

貫き続けた想いが、
技術者を奮い立たせた。

製造設備を建設し、そこでつくられた「e-methane」を実際に届けていく。その実現性を見極め、予算やシステム構成などの詳細な計画を立案し、全社的な承認を得る。そのプロセスは慎重に、一つひとつの課題を塗りつぶしながら進められた。プロジェクトにGOサインが出たのは、構想から6年が経過したタイミングでのことだった。

実証試験フロー図

「技術や調査に関する理解は得られていても、実際に設備を建設するには、かなりの予算が必要となります。また、実際に『e-methane』を届けていくうえで、クリアすべき課題も多く存在していました。慎重なプロセスを踏んでいくことは、絶対に必要なこと。私たちには、安全にガスを安定供給する使命がありますからね」
頻発する異常気象に、気候変動による海面の上昇。数多の環境変化は、社会の常識を大きく変えていった。パリ協定の成立、SDGsの高まり、カーボンニュートラルへの取り組み……。社会全体の機運を受けて、「メタネーション」の導入は必要不可欠なものとなっていった。
「なかなか実現に結びつかず、心が折れそうになることもありました。しかし、この技術は、社会にとって絶対に必要なものだという確信があったんです。環境への影響の大きいエネルギーを通して、環境問題の解決に役に立てる仕事をしたい。入社時から貫き続けた想いが、私を奮い立たせてくれたのだと思います」

STORY 03

社会実装に向けた第一歩を。

現在、東邦ガスの知多LNG共同基地(都市ガス工場)では、「メタネーション」に用いる設備の設計・建設が進められている。工場に隣接する知多市南部浄化センターから取り込むバイオガス由来のCO2と、冷熱発電などによって製造されたクリーンな水素を原料として、e-methaneを製造し、都市ガス原料として利用する。2023年度末には、その実証実験がスタートするそうだ。

「ガス業界は2030年までに都市ガス量の1%を、2050年までに90%をe-methaneにする目標を掲げています。今回の取り組みは小規模なものですが、信頼性や安全性などの課題抽出や、重要課題である大型化につながる技術検討を行うことで、実用化への大きな第一歩になると考えています。また、このプロジェクトは、『メタネーション』という技術を世の中に知っていただく機会でもあります。確かな成果を生むことで、将来にわたって都市ガスを使い続けてくださるお客さまの理解を深めていきたいと思っています」
本プロジェクトは、東邦ガスの未来を切り拓くものであり、持続可能な社会を実現するためのものでもある。萩野はこのプロジェクトに、多くの若手人材が参画してくれることを期待している。
「エネルギー分野は劇的な変化に見舞われ、対応がますます困難になっていきます。しかし、それは同時に、新たなチャンスでもあると私は考えています。未来を先読みし、新たな可能性を見出し、粘り強く取り組むこと。そうすることで初めて道は拓かれるのではないでしょうか。より多くの若手にこのプロジェクトに参画してもらい、次代のエネルギー社会を実現していってほしいと期待しています」