開発担当者インタビュー #08



コージェネ対応の新たな潜熱蓄熱材で貴重な熱エネルギーの有効利用を実現。技術研究所 新領域開拓グループ 中村洸平

日本では、年間1兆kWhにものぼる未利用熱エネルギーの大部分が廃棄されていると言われています。熱の有効活用は省エネ化やCO2削減のために重要です。効率的なエネルギー利用を実現するためのエネルギーマネジメントの視点から、当社は熱の有効利用技術に関する研究・開発に取り組んでいます。これらの取り組みの中で、自社で開発した潜熱蓄熱材を用いた高密度蓄熱技術の研究・開発に携わる、中村さんにお話を伺いました。

蓄熱量が大幅にアップ。新開発の蓄熱材。

都市ガスでガスエンジンやガスタービンを稼働させて発電を行うと同時に、排熱を回収するコージェネ。回収した排熱を、給湯や冷暖房、保温、暖気などに使うことで、エネルギーを有効利用できるシステムとして知られています。コージェネの省エネ性やCO2削減効果を高めるためには、発電時に排出される熱をできる限り回収し活用することが重要です。そんな背景から、当社は熱を有効利用する技術の確立を目指しています。

熱を電気に変換する熱電変換や、熱を逃がさないための遮熱・断熱など、熱利用技術には様々な方法があります。その中でも、当社が取り組んでいるのは、蓄熱材を利用した高密度蓄熱技術の研究・開発。この技術は、少ない体積で大量の熱を蓄えられる蓄熱材で排熱を蓄え、熱需要のある時間帯まで貯蔵し有効利用するものです。世の中には熱を蓄える素材が数多くあり、私たちのごく身近にあるものでは、保冷剤として活用されている氷もその一つ。固体から液体へと変化する際に熱(潜熱)を蓄え、冷却によって液体から固体へと変化する際に熱(潜熱)を放出するという仕組みです。このように出入りする熱(潜熱)を利用した蓄熱材は潜熱蓄熱材と呼ばれ、石油成分から分離・精製されるパラフィンが既存の潜熱蓄熱材料として広く使用されてきました。

当社が新たに開発した潜熱蓄熱材は、無毒で不燃性の食品添加物を主成分としています。安全性が高いだけでなく、市場流通量が大きいため材料費を安価に抑えられるという利点があります。新開発の蓄熱材は、利用可能温度差10℃で、1リットルあたりの蓄熱量が約400キロジュール以上となり、一般的な温水による蓄熱量の約10倍を記録。蓄熱材が高密度であれば、体積を減らしても十分な熱を蓄えることができるため、従来の貯湯槽に比べてシステムの小型化や省スペース化が実現できます。また、蓄熱槽が小型化すれば外気に触れる表面積も少なくなり、放熱ロスの大幅な低減が期待できるのです。

失敗から得られたヒントを活かして。

高密度蓄熱技術の研究・開発は、世の中の排熱の温度レベルや活用形態を調査するところから始まりました。その中で気がついたのが、高温排熱の再利用は進んでいるものの、100℃未満の低温排熱は利用が難しいという現状。また、低温排熱の温度帯によっては、利用できる蓄熱材が未だ開発されていないことも明らかになりました。せっかくの熱エネルギーを無駄にしたくないという思いから、低温排熱を蓄えられる蓄熱材の必要性を強く実感したのです。

蓄熱材の開発から機器の設計に至るまで、高密度蓄熱技術の研究・開発には参考にできる先行事例が乏しく、多くの試行錯誤を繰り返しました。特に蓄熱材については、コージェネ排熱の温度帯で蓄放熱可能な材料を探して、数百通りのパターンを一つひとつ性能評価。所望の温度帯で固体から液体、液体から固体へと変化するように調整することは容易でなく、なかなか思うような結果が出ずに苦労しました。それでも、社内外の技術者・専門家らとも積極的に情報交換を行い、課題を逐次解決しながら、材料の開発に取り組みました。

また、失敗の経験も活かそうと、蓄熱材の配合パターンと物性、蓄放熱性能などをまとめたデータベースを作成。うまくいかなかった結果も含めて詳細に記録しました。一つ失敗しても行き詰まることなく開発を進めることができたのは、データベースを元に傾向を調べ、常に複数の課題解決策を立てておいたおかげだと思います。小さな一歩を積み重ね、遂に完成した新たな蓄熱材は、特許も成立。地道な作業を通じて材料に関する知見を蓄え、改良を加えてきたことが結果に結びついたのだと思います。

やりがいを胸に、研究・開発に取り組む。

私は本研究・開発に立ち上げ当初から関わり、材料開発から機器の設計までいくつもの工程を担当してきました。私自身の専門分野は化学ですが、それ以外にも幅広い知識が必要とされ、専門の異なる開発メンバー間で、互いの情報や知見を共有しながら課題の解決を図ってきました。また、蓄熱材の性能評価の際には、技術研究所内の分析チームや数値解析チームとも連携。さらに、社外の学会や交流会などにも積極的に参加し、熱利用分野における最新の技術開発動向の把握や、技術解決につながる情報の収集に努めています。専門性の拡大と深化を目指して大学院の博士課程にも進んでおり、興味を持って学ぶ分野は今もなお広がるばかりです。それまで世の中になかった新しいものや価値を創り出していくことこそが、技術開発の楽しさ。前例がない分、苦労もありますが、周囲の人たちと協力しながら課題を解決していくことに、大きなやりがいを感じています。

現在、高密度蓄熱技術の研究・開発は、実稼働条件下での実証試験に入っています。実際に蓄熱材を充填した蓄熱槽を試作し、コージェネと接続。蓄熱システムの性能を詳細に分析・評価し、課題の抽出・解決を図りながら実用化を目指しています。少ない体積で大量の熱を蓄えることができる、当社独自の高密度蓄熱材。それを使った蓄熱技術は、熱源から排出された熱を貯蔵し、熱需要のある時間帯や場所で有効活用することを容易にします。排熱の温度帯と、蓄熱材が蓄放熱する温度帯がマッチすれば、コージェネ排熱以外のあらゆる熱も時間差・空間差利用ができ、省エネやCO2削減に貢献できるオリジナルの技術だと自負しています。また、蓄熱材の開発において構築した、材料の配合パターンや物性、蓄放熱性能に関するデータベースにより、蓄放熱温度帯などの諸物性をチューニングする手法も確立できました。まずは実証試験中の蓄熱技術の実用化を目標に、将来的には、蓄熱材のバリエーションや適用温度帯の拡大にも取り組んでいきたいと考えています。

PAGE TOP