開発担当者インタビュー #07



技術研究所 燃料電池技術グループ 小椋裕介

地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」などを踏まえ、わが国でも温室効果ガス削減とエネルギー安全保障の必要性が一層強く叫ばれています。また国内では、水素をエネルギー源として利用する社会の実現に向けた「水素基本戦略」を政府が策定。新たなエネルギーシステムへの移行が目指される中、当社は、都市ガスから取り出した水素を利用する発電システムの高効率化に向けて、次世代の燃料電池を開発しています。鍵となる独自材料の開発に至った経緯や今後の方向性について、技術研究所の小椋さんにお話を伺いました。

発電効率の高さだけでない、SOFCの魅力。

都市ガスから取り出した水素と、大気中の酸素との化学反応により電気と熱を取り出す、燃料電池。電解質材料に高分子膜を使用した「固体高分子燃料電池(以下、PEFC)」は、家庭用のコージェネレーションシステム(電力と熱の両方を供給するシステム。以下、コージェネ)や、自動車・携帯端末の動力源として用いられています。そのPEFCに続けて普及拡大が図られているのが、「固体酸化物形燃料電池(以下、SOFC)」。発電素子であるセルがセラミックスから構成されており、都市ガスなどの化石燃料を用いる燃料電池の中で最も発電効率が高いとされています。2012年度には、SOFCを使用した家庭用コージェネ「エネファームtypeS」が販売開始。発電効率の高さ以外にも小型化・低コスト化へのポテンシャルの高さなど、SOFCには様々な長所があります。それを受けて当社では、将来的な省エネ・省CO2への大きな貢献が期待される業務用SOFCの開発に取り組むことになったのです。

当社のSOFC開発は、材料に着目した基礎研究から始まりました。1990年代、SOFCのセルに使用するセラミックス材料「スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)」を、第一稀元素化学工業さまと共同開発。SOFCは起動停止時の温度変化が激しく、その際の熱応力でセラミ ックスが割れてしまうという難しさがありましたが、材料の組み合わせと合成方法を工夫した結果、しなやかで割れにくく、高効率発電を実現できるScSZを見出しました。その後、ScSZを用いたセルの開発に成功し、このセルでScSZがSOFC用電解質材料として優れた特性を示すことを検証。権利化へと結び付けました。また、SOFCで実用的な発電出力を実現するには、複数のセルを積み重ねたスタックを構成する必要があります。そこで、新開発したセルの性能を十分に引き出せるようなスタックの開発も併せて進めてきました。2000年代にはこのスタックを搭載した発電システムの開発に着手。システム原理機の試作を行い、小型で高効率な発電機としてのSOFCシステムの可能性を国内メーカーに先駆けて示してきました。

現在は、高効率かつ低コストな業務用SOFCシステムの商品化に向け、試作システムの性能検証や実証試験、またシステムに搭載するスタックの発電効率・耐久性向上を目指した取り組みなどを進めています。

SOFCコンジェネシステムの構成

一般家庭から業務用まで、広がる可能性。

これまでは、主に家庭用コージェネの電力源・熱源として利用されてきたSOFCですが、新たな利用の可能性が広がっています。コージェネは一般的に、給湯や暖房のための熱を多く必要とされるお客さまにご提案するケースが多いのですが、発電効率の高いSOFCは、その電力だけでも経済的メリットや省エネ性を確保できるため、熱需要の少ない業種のお客さまへのご提案も可能になると期待しています。そんな業務用SOFC開発に積極的なのは、もちろん当社に限ったことではありません。国内外の多くのメーカーなどが参入する中、コスト競争力のあるSOFCの商品化に向けて、当社では社外との連携にも力を入れています。メーカーや大学の先生などと共同開発・共同研究を行うほか、当社がメーカー製品を評価・分析して改良に向けた課題を議論したり、反対にメーカーから部品の提供を受けて当社開発に活用したりすることもあり、このような強い連携が開発を進める力になっていると感じます。また、様々なメーカーとのやりとりを通じて、異なる社風や技術課題解決へのアプローチに触れ、刺激を受けることもしばしば。内を向いてばかりでなく、社外とも広く関わりながら開発を進めていくことの大切さを実感しています。

共同開発を進める中では、当社が長い歴史の中で培ってきたものの重要性にも気が付きました。私たちガス会社は、お客さまに対してソリューションや機器、システムを提案する最前線に立ち、お客さまのニーズに最も近い存在です。時には、困りごとや使い勝手の不満、トラブルの報告などが寄せられることもあります。そういった情報を一つひとつ積み重ねてきたことも、当社が燃料電池を開発するにあたっての強みのひとつ。機器性能はもちろん、お客さまへの提案・導入時に重要となる施工性や、お客さまの使い易さに配慮したインターフェイスなども総合的に考慮した、魅力ある製品を世の中に出すことが、当社の使命だと考えています。そして、私たちが目指すゴールは商品化だけではありません。製品が世に出た後も、お客さまのエネルギー使用実態に合わせて燃料電池を最適運用するためのご提案など、お客さまの声を近くで聞くことのできる立場を活かし、より一層の商品性向上やさらなるコストダウンを図っていきたいと思います。

自身の成長を糧に、未来志向の研究・開発に挑む。

SOFCの開発は、分野の垣根を超えた幅広い知識と技術がなくては実現できません。例えば、発電素子であるセルの開発に着目すればセラミック材料や電気化学の知識が不可欠であり、そのセルをスタックとして集積する際には、流体力学や伝熱工学を踏まえた機械設計の知識も必要となります。当社グループには様々な専門領域を持つメンバーが在籍しており、それぞれの強みを活かしながら開発に取り組んでいます。専門性向上に向けた社員の成長モチベーションも高く、当社に在籍しながら大学院博士課程に進学する研究所員もいます。私も大学院で、将来的に確立されれば燃料電池のコストを下げうるであろう、先進的な材料の開発を目的とした研究に取り組んでいます。社会人になっても学ぶ姿勢を維持できるのは、最新の知見を身につけるための取り組みを会社がサポートしてくれるおかげです。

東日本大震災を機に日本のエネルギーをめぐる状況は大きく変わり、2016年には電気、2017年にはガスの小売り全面自由化も始まりました。電力とガスが相互に相乗りするなど、業界の構図が変わる中、高効率な発電機である燃料電池をどう活かしていくべきか、どのような機器や事業者をライバルとして想定すべきかを再確認しながら、開発を進めていくことが求められています。短期的には高性能な業務用SOFCを商品化・普及させることが私の役割ですが、それと併せて、将来の状況変化を想定した新たな基礎研究も仕掛けていきたいですね。

燃料電池の分野では、世界に先行する日本。私たちの開発する燃料電池は、ガス会社の既存インフラであるガス導管を活用できる現実的な発電システムであり、なおかつ高い将来性があります。地域産業の振興や社会貢献に役立つような燃料電池のあり方を、これからも追求していきたいと思っています。

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